太秦ライムライト
太秦ライムライト
2014年公開 日本 104分
監督:落合賢
キャスト:福本清三、山本千尋、合田雅吏、萬田久子、峰蘭太郎、本田博太郎、小林稔侍、松方弘樹
京都・太秦にある、日映撮影所。そこに所属する香美山清一は、斬られ役として長年大部屋俳優を務め、無数のチャンバラ時代劇に出演してきた。
ある日、およそ半世紀にわたって放送されていたテレビ時代劇「江戸桜風雲録」が打ち切りになり、後番組として若年層向け時代劇がスタートするが、そこにベテランたちが活躍する場はなかった。
そんな中、香美山は伊賀さつきという新進女優と出会い、殺陣の師匠となって彼女に指導していくが…
パッケージ的には普段まず手に取らないこの作品。
しかし何かのDVDの新作レンタル情報で観た瞬間「これは観なくては!!」となって早速借りてきました。
だって福本先生の初主演とのこと!しかも時代に置いて行かれる老切られ役とのこと!観なくては!
「50000回斬られた男」「日本一の斬られ役」福本清三先生のことは「ナイトスクープ」で知ったのですがそれ以降時代劇等を観る時はつい目がいってしまう存在でした。
ってことで、一応フィクションであり、チャップリンの『ライムライト』をベースにした作りになっているこの作品、すっげー良かった…
どうしても香美山と福本先生を重ねてしまってグッときた…ってことで良作でしたが福本先生のことを知らない人にはそこまで響かないかもしれないです。ストーリー自体は粗いというか結構凡庸なので。
でも福本先生と峰蘭太郎さんの殺陣シーンとか見応えありでした。
時代劇がそこそこ好きだった身としては結構頷ける部分もあり、時代劇が好きな方は楽しめるかと思います。劇中の「江戸桜風雲録」に「水戸黄門」を重ねながら拝見していたら無性に「水戸黄門」が見たくなってきました。再放送は仕事で観れないしな。
以下ネタバレあり
太秦の日映の大部屋俳優、中でも斬られ役に焦点を当てた作品です。
1人の名斬られ役(でも結局は名も知られぬような端役)と仲間たちが時代の流れに抗えずに、若者の台頭、時代劇の終わりにその生き様を終える物語、でしょうか。
で、まず主演の福本先生についてですが、斬られ役の名人、その他大勢の中でずーっとやってきた職人俳優さんです。斬られ方の研究を熱心にされているそうで、海老反りのやつとか強烈な演技を魅せてくれます。しかし所詮斬られて死ぬ役。一般的には名も知られてなかったのですが、その見事なまでの斬られ方で「探偵ナイトスクープ」に「あの斬られ役の方は誰ですか?徹子の部屋に出てもらって色々話を聞きたい」といった依頼が寄せられ、一気に有名になった(と思う)のです。
結局ナイトスクープ内では桂小枝さん扮する偽徹子の部屋だったんですが、それに本物徹子さんが興味を持ち結局本当に「徹子の部屋」に呼ばれることになったという
ちょっとしたアメリカンドリームな方。
いや、本当のアメリカンドリームとしてハリウッド作品にも出演しているのですが。『ラストサムライ』に。
まぁその徹底したと言ってもいい職人技にファンは多く、きっと詳しくまとめてくださっている方は沢山いると思うので良かったら検索してください。「斬られ役」で検索すればすぐに福本先生が出てきます。
ちなみに福本先生は定年で東映を退職しましたが、嘱託としていまだ現役のようです、有難い。
ってことでこの作品。
先にも言いましたし、タイトルそのまま『ライムライト』をベースにしたような話です。『ライムライト』の引用も入りますし。
「ライムライトの魔力 若者の登場に老人は消える」って。
その通り香美山に稽古をつけてもらった新人女優が成功し、香美山は退職、しかし周りの声もあり弟子と殺陣をするために現場に戻り…って感じ。
香美山の普段の姿はパンチパーマじゃないので最初はちょっと違和感ありましたが、斬られ役の時はいつものあの素浪人姿で安心(笑)
しかし改めて見ると本当に福本先生ってお年だなーと。で、あの芝居をしてくれるわけだから一体どう鍛えているんだろうと、やはり職人、プロですね。あの年であの海老反りできるんだもんな。
それにしてもこの作品、本当に福本先生じゃなければ成立しない話ですよね。
福本先生が言うから言葉に説得力が生まれるわけですし。
「一生懸命やっていれば、どこかで誰かが見ていてくれる」
この言葉がこんなに重く感じる人、そうなかなかいないですよね。
そしてそんな福本先生を重ねてしまうからこそ所々で涙が滲んでくる…堪らんな。
話は結構突拍子もなかったり、いまいちよくわからなかったりするんですが。
ヒロインの子が急に東京で成功していたり、重役さんが何故かやたらと時代劇を潰しにかかっていたり、説明不足っていうか場面が急に飛ぶ印象を受けます。
ヒロインの子と言えば、可愛いしアクションも様になってて好感持てます。でも役の中のことですが、師匠から譲り受けた木刀を普通に物置みたいなとこに置いていくのはどうかと思った、マジで。その瞬間嫌いになったわ(笑)
あと男の子も「なんで京都の時代劇守れへんかったんですか」って言う奴、お前も守らんかったやろうがー!ってムカついた(笑)
で、劇中の40年続いていたという時代劇「江戸桜風雲録」、やはり「水戸黄門」を思いだしますよね。あれももう打ち切りレベルでしょ。あのよくわからない感じのキャストになってからは数回しか観なかったですが。
「水戸黄門」はいつ見ても安定して面白いから好きだったんで、終わりとなった時はショックでした。
なのでこれを観て「水戸黄門の裏でもこんなんがあったんかな」と思ったり。
若者に人気な俳優やアイドルを使って話題性や視聴率を稼ぎたい気持ちはわかりますが、やっぱね、時代劇は職人俳優がやってこそですよね。あの時代劇特有の作り物感とそれに伴うコメディ感をちゃんと自分の空気に出来る方じゃないと滑稽さばかり目立っちゃうからね。
あー、「水戸黄門」観たいな。
個人的に好きなシーンは先述した通り福本先生と峰蘭太郎さんの殺陣シーン。
あと故郷に帰った香美山が幼少期の自分を追いかけるシーン。グッときた…
そして普段よっぽどセリフのない福本さんですが、これも主演作とは言え基本寡黙でそのオーラで立っていて、その空気感に大満足です。
ってことで個人的にはオススメ作品ですが、時代劇好きと、何より福本先生好きな方にオススメします。