ブルー・リベンジ
BLUE RUST
2013年制作 2015年日本公開 アメリカ、フランス 91分
監督:ジェレミー・ソルニエ
キャスト:メイコン・ブレア、デヴィン・ラトレイ、エイミー・ハーグリーヴス、ケヴィン・コラック、イヴ・プラム
ボロボロの青色のセダンを根城にし、誰とも関わらないようにひっそりと生きているホームレスの男ドワイト。
警察に呼び出された彼は、両親を殺した犯人が刑に完全に服すことなく刑務所から出されることを告げられて大きなショックを受ける。
やがて、すさまじい怒りに駆られた彼は復讐を決意。セダンを激走させ、釈放された犯人のもとへと向かうドワイト。
だが、その復讐劇は思わぬ事態を引き起こし…
ってことでずっと観たかった作品。レンタル開始から1週間レンタルまでが長かった気がする…。あれどういう基準で決めてるんですかね。めっちゃ早いのもあるのにね。
で、この作品。良かった。
あらすじから想像したのとはちょっと違うんだけど、良かった。
セダンを激走っていうイメージは全くなかったけど(笑)でも静かな心の葛藤ありで、他の復讐作品ともちょっと違ってて。
主人公のこともよくわからないまま始まって、よくわからないまま観ていって、観ているうちに主人公の気持ちがわかってくる。
胸糞エンドっぽいんですが、でも結構スッキリ終わっていたとも思います。一応希望が感じられる、とりあえず。
言ってることは真新しいことではないんですが、でも綺麗にまとまっているというか、わかりやすくまとめてあるというか。
決して楽しい作品ではないんですが、観て良かった1本でした。
以下ネタバレあり
主人公ドワイトがお風呂に入ってるシーンから始まります。そこに誰かが帰ってくるとドワイトは窓からそのまま脱走。
「お前ん家じゃないんか」ってことで、彼が辿り着いたのはボロボロの青いセダン。
いくらホームレスと言えど留守の家でお風呂に入るな(笑)
本当説明らしいものが全くなく進んでいくんで、ドワイトがホームレスをしている理由も最初わからず、殺されたのが両親ってこともわからず、勝手に妻と子供くらいに思ってたよ。そして両親を殺されて、ドワイトは行方をくらましてたってことなのかな。
で、そんなホームレスをしていたドワイトが両親を殺した犯人が司法取引にて早く出所することを知って復讐に行くんですが、始まってすぐに復讐が終わります。
「え、終わったやん」と『ウソ発見器』の時のような気持ちに。
一瞬ちょっと嫌な予感を感じましたが、それは杞憂でした、良かった(笑)
この復讐もなかなか良かった。ホームレスな為、銃を買いに行くものの買えず、ハガキを買って復讐をする前に姉に手紙を出す。そして他人の車から銃を盗むものの、その銃は壊して捨ててしまう。「何してるのさ」と思ったけど、ここからもうドワイトの葛藤は始まってたんだよね。
結局ナイフで復讐するんだけど、もともとがバイオレンスな性格じゃないからナイフでの復讐もスマートに行えず。計画性もなく、犯人の顔を見たら思わずって感じ。不恰好に頭をぶっ刺して復讐を果たすも、車のキーを現場に落としてくるわ、犯人家族の車のタイヤに残りの怒りを込めるかのようにナイフをぶっ刺すも、自分の車のキーを落とした為にその自分でパンクさせた車で逃げなきゃいけなかったり、ちょいちょい「おいおい(笑)」的な笑いどころはあります。
しかもその車には犯人の弟が乗っていて、復讐を終えたドワイトに犯人の弟が「ぬれぎぬだ」って言って去っていく。普通そこで少しなりとも「え?」となりそうなものの、ドワイトは「犯人への怒り」が強く、遂行したことに戸惑いを感じつつもそこへの疑問は持たず。
そしていつもの(お風呂を勝手に拝借した)家でテレビを観るものの犯人が殺されたというニュースはなく。
現場に置いてきた自分の車の名義の住所が姉の家になっているので姉に会いに行き、復讐をしてきたこと、そしてその復讐にきっと犯人家族が来るから逃げるべきだということを告げます。
この姉がすっごいムカついた。ドワイトが犯人を殺してきたことを告げると「苦しめたでしょうね?あんなリムジンを乗り回す偉そうな奴」みたいに言ってたのに、「きっと復讐に来るから逃げろ」というと「なんてことしてくれたの!あなたは弱いから復讐なんてするんだ」と急に責める。この姉の背景もよくわからなかったんですが…シングルマザーのようで、ドワイトとはしばらく会っていなかったというくらいしか。
でもドワイトはこの姉と姪2人をとにかく守ろうとする。
犯人家族の所持品を見る限り、きっと両親は銃で殺されたんだろうな、と思うんですが、その為に最初ドワイトは銃を手に取ることを戸惑っていたのかな。まぁ買えなかったってのもありますが、その後一応手には入れているわけですし。
そんな彼が姉一家を守る為にも銃を手に取ります。
この銃を貸してくれる旧友ベンがとてもいいキャラで、陰鬱としたこの作品の癒しのような存在(決して本当の癒しではなく、ちょっと危ない笑える奴)で。
ベンは元軍人のガンマニアのような人らしく、ドワイトにどう銃を使うかを教えてくれるんですが、その一方で「復讐する気持ちはわかるけど、俺ならやらない」と一言くれます。
多分これがドワイトに必要だった言葉だよね。最初からドワイトはずっと何かに戸惑うような様子だった。両親を急に奪われたことへの戸惑いでもあり、復讐に捕らわれる自分への戸惑いでもあったんじゃないかなって思ったり。でも、怒りに任せて始めてしまった復讐はもう止まらないんだよね。守りたいものがあるから。最初の復讐の前にドワイトにこう言ってくれる人がいれば良かったんだけど、何せドワイトはホームレスだったし。
ベンの話から推測するにドワイトはいきなり街からいなくなったようだったけど(時間軸がいまいちわからないけど多分両親が殺されてから?)、彼がそのままそこに留まってベンと交流を続けていたら最初の復讐の前にベンはその言葉をくれたかもしれないのに。銃を借りにきたドワイトを最初説得するような仕草もあったしね。
そして事件の真相、自分の父親と犯人家族の母親が浮気をしていて、それに気付いた犯人の父親がドワイトの両親を殺した。でもその父は癌だった為、健康で犯罪歴無しの息子が罪を被って服役した、という話を聞いて、ドワイトの復讐に対する戸惑いはどんどん深くなっていく、でももう止められない。
しかもその真犯人は幸せに安らかに死んだと聞かされ、本当の復讐の対象すらもういない。
ドワイトは復讐の虚しさ、そこから生まれるものはまた復讐である無常さを感じつつも、それを終わらせるのは死しかないことを悟るから、ベンに自分の楽しかった時の写真が見つかったら「捨ててくれ」と頼むんだよね。
なんともやるせない話です。
そしていつも大事そうに首から下げてた車のキーを最後の復讐に行く前に車につけたままにしていきます。もう戻ってこないことへの意思表示なのかなって思ったんですが、これがラストちゃんと活かされてて良かった。
残りの犯人家族と対峙している時に来る1人だけ毛色の違う犯人弟。他の家族と違い犯罪を嫌っているようだった彼が、家族を守る為に1発ドワイトの腹を撃つものの、家族に「頭を狙え」と言われても拒否する。
そんな彼を見てドワイトは「自分の父と犯人母の子」と思ったのか(事実はどっちなのか私にはわからず)、「森の中に自分の車が停めてある、鍵も付いてるから銃を捨てて逃げろ」と言う。
彼は結局家族を捨て、銃も捨てて去っていき、ドワイトと残りの犯人家族は相討ち。
生き残ったのはこの弟と姉一家だけでした。
なんともやるせない話だ。
ドワイトが最後、息も絶え絶え「鍵はついている」と繰り返すシーンとか、彼を復讐の連鎖から逃がしたかった気持ちの表れなのかな?
でも、この場ではああいう選択をした弟だけど、家族の為に銃を撃つ姿勢もあるってことで、また復讐に向かわないとは限らないよね。
ってことで、ラスト、姉の家に誰かが戻ってくるのは姉一家とは限らない、もしかしたら弟が姉一家への復讐に来たのでは…とか思ったりもしました。いや、個人的にはやはり弟には復讐の連鎖から抜け出して希望でいてほしいですけどね。
そして、そこに届けられた絵葉書。多分ドワイトが復讐前に姉に書いたやつだよね。
そこに何を書いたのかは知りませんが…。
ストーリーとしては「復讐からは何も生まれない、復讐は連鎖する」っていうシンプルなことなんですが、結構色々と考えられる作品でした。
上のも適当に思ったことを話してるので鵜呑みにしたらダメです。
2度3度観るともっと発見がありそうな作品なので、もう少ししたらもう1度観直したいです。
とりあえず本当に憎むべき犯人は幸せに最期を迎えていて、悲劇の大元は自分の父親の浮気っていうのもやるせないよね。
タイトルの『ブルー・リベンジ』はそのままブルーな復讐ってことだけど、原題のRUSTは破滅って意味もあるから、そっちの方が私としてはシックリきたかな。
そして映像的にもブルーの使い方が良かったです。印象的にちょこちょこ出てくるブルー。北野武作品がちょっと観たくなりました。何か借りてこようかな。