その男、凶暴につき
その男、凶暴につき
1989年制作 日本 103分
監督:北野武
キャスト:ビートたけし、白竜、川上麻衣子、佐野史郎、芦川誠、平泉成、岸部一徳
一匹狼の刑事・我妻諒介は凶暴なるがゆえに署内から異端視されていた。
ある晩、浮浪者を襲った少年の自宅へ押し入り、殴る蹴るの暴行を加えて無理やり自白させた。
暴力には暴力で対抗するのが彼のやり方だった。
麻薬密売人の柄本が惨殺された事件を追ううち、青年実業家・仁藤と殺し屋・清弘の存在にたどり着いたが、麻薬を横流ししていたのは、諒介の親友で防犯課係長の岩城だった。
『ブルー・リベンジ』を観て北野作品が観たくなり借りてきたのがこれ。
北野作品はこれと『キッズ・リターン』くらいしかちゃんと観ていないのですが、あ、『龍三~』も観たか。なので他のを借りてこようと思ったものの、これを観たのも中学くらいであまりわからずフワーッと観ていた記憶があったので「とりあえず最初から」の気持ちで『その男、凶暴につき』に決定。
当時、いや、今でも私はビートたけしのお笑いがあまり好きではないのですが、なんでこの作品を観たかと言うと「タイトルが良かった」っていうのと「淀川さんが褒めてたらしい」ってことだけ。
私の中学時代はネットなんてまだそんなに普及していなくて、子供の携帯普及率がグッと上がったくらいの時期で、それこそパケ定額なんて無くて、ネットで調べ物って感覚はなかったのできっと親とかに「淀川さんがこの作品褒めてた」みたいなのを聞いたんだと思います。
まぁ中学生には早かった気が…。「物騒な映画だなー」くらいの感想だったと思います(笑)
で、久々に観たところ、なかなか面白かった。
初監督作品ということで、物凄く色々と素人っぽいんだけど(演技も)、それがまた良い味を出しているというか。
映像はもう北野作品って感じだし、ストーリー運びも大きな拙さも感じなければ新鮮味もない。原作ついてる割には北野色強いもんな。
個人的には豪華過ぎるキャスティングと、魅力的な音楽の使い方が好きです。
ってことで、普通に楽しめました。これを機にもう少しちゃんと北野作品観ていこうかな。
以下ネタバレあり
観てまずその若さにビックリした(笑)
まぁそらそうだよね。1989年とはビックリした。1989年なんてまだ記憶全然ないよ。
でもみんな面影があって楽しかった。あ、これは!これは!って感じで(笑)
人物描写としては『キッズ・リターン』を観た時も思ったけど、主な登場人物にあまり感情を持たせないよね。いや、感情はあるんだけど、それをやたら前面に出さない。
基本的にはフラットな状態で、そこに少し笑いとか怒りとかが入っていく感じ。
この感じは北野作品の他の特徴でもある省略とか、この作品ではやたら思った「よくわからないシーン(必要性が)」とかと相まって凄く魅力的に思えた。
1つのエンターテイメントである「映画」として捉えると不親切だったり退屈だったりするのかもしれないけど、一種のリアルというか、なんて言うのか、覗き見しているような感覚?
ボソボソ喋るような感じもそうだけど、視聴者を感じさせない作りがいいなーと。
と言ってもそれをひたすら徹底しているわけでもないのでちゃんと「映画」だなーと思える。
淀川さんもこの作品に対してやたら「映画なんです」を繰り返してたけど、ポイントは違うけど「映画だなー」と思えるんだよね。なんだろう、この感覚をうまく言葉にできないけど、よくできてるなって思う。
まぁナルシスト映画にも思えたけど(笑)でもまぁしょうがないわな。
ストーリーとしては特に目新しいところはなかったけど(今観ると)、不条理さというか理不尽さというか、そういうのはしっかりしていたな。
結局誰が悪いとかそういう話じゃないんだよね。全員がキチガイって話でもないというか、「世の中そんなもんだろ」的な。
結局仁藤の部下が仁藤のポジションを引き継ぎ、岩城の後釜に菊地が入るっていう。
「このくらいじゃ何も世の中変わりません」って。まぁ世の中を変える為に戦っていたわけじゃないけどね。
ラストカットが仁藤の事務所の秘書?の女性が何か言いたげな顔をしつつも普通に仕事をするシーンなんだけど、結局普通に生きたければある程度の見て見ぬ振りが大事って言うか、関わらないことが大事って言うか、そんな感じなのかな。
まぁ大概の人がそれを自然にしているわけで、だからこの覗き見感のある作品で自分の普段の生活とは違う部分を観ると少しワクワクしたり、ハラハラしてしまう。
なんて思いながら観てました。
でも前半には微笑ましいようなシーンも結構あって全体を通して飽きずに観れたな。
あと少しアレンジされたサティの「グノシエンヌ第1番」の使い方が良かったな。『キッズ・リターン』でも音の使い方が良かったけど、久石譲じゃなくても、この時から良い音の使い方をしてたんだな。
それにしてもサティは不安にさせるというか、落ち着きつつもソワソワさせる綺麗なメロディが本当に秀逸です。