キャタピラー
キャタピラー
2010年制作・公開 日本 84分
監督:若松孝二
勇ましく戦地へと出征していったシゲ子の夫、久蔵。
しかし戦地からシゲ子の元に帰ってきた久蔵は、顔面が焼け爛れ、四肢を失った姿だった。
多くの勲章を胸に、「生ける軍神」と祭り上げられる久蔵。シゲ子は戸惑いつつも軍神の妻として自らを奮い立たせ、久蔵に尽くしていくが…
『ソナチネ』が借りたかったのですが残念ながら貸出中で、時期的にも「戦争コーナー」が組まれていたのでこれを借りてきてみました。
まぁこの作品の噂は小耳に挟んでいまして、元になった1つの乱歩の『芋虫』は読んだことがあるので「あれを映像に…えー…」という気持ちで「あまり観たいものではないな」という感覚だったのですが。
ちなみに『芋虫』の映像化としては『乱歩地獄』を観たことはあるんですが、あれはもうなんとも言えない思い出しかないので。キャストは豪華だったんだけどな。
もう1つの元になっている『ジョニーは戦場へ行った』は観たことないんですが、観てみたいような、でもやっぱ気が引けるような…
とりあえずこの作品は「寺島しのぶすげー!」に尽きた。
なんだろう…戦争作品であって戦争作品ではないというか。反戦作品らしいですが、あまりそういう感じはなかったかな。
「戦争行くとこうなっちゃうかもよ、怖いね」っていうことより、あの夫婦間にある色々な感情がメインで、戦争はその状況に置くための1つのファクターって感じ。
なので私の観る最初の心持ちが少し間違いだったかな。
夫婦間のあれこれを描いた作品としては、良い意味で気持ち悪く狂っていて期待以上だったのに。
とりあえず寺島しのぶ凄いです。なんかもう普通に怖いもんな(笑)
「キャタピラー CATERPILLAR」 予告編 - YouTube
以下ネタバレあり
乱歩の『芋虫』は「ひぃぃぃぃぃ」と思いながらも結構好きなんですが、これは『芋虫』ともまた違いまして。
この『キャタピラー』の方が個人的には恐ろしかったです。
四肢を失い所謂だるま状態で帰ってきた夫を見て「こんなの久蔵さんじゃない」と泣いていたシゲ子が、暴力的で威圧的な夫の世話をしつつ自分の中の狂気に蝕まれていく話…なのかな?
村で軍神扱いを受ける久蔵は食欲と睡眠欲と性欲を満たすだけの生活をし、ご飯に文句をつけ、自分の受けた勲章に縋り、シゲ子の身体を求める。
シゲ子は最初は甲斐甲斐しく世話をするものの、食べて寝てセックスをするだけなのに高圧的な久蔵に元々からある憎しみが湧き出てきて、関係性が逆転します。
戦争に行く前の久蔵は事あるごとにシゲ子を殴り、子供が出来ないシゲ子を「役立たず」と罵っていたようで、そんな恐怖の対象であった夫が口も聞けずに自分の世話を受けないと生きていくこともできないという状況に酔っていきます。
その上、夫の世話をするとその自己満足感だけでなく、軍神の面倒をきちんと見ているよく出来た嫁、日本国の嫁の鏡と他者も自分を認めてくれるので、シゲ子は気持ちが疲れてくると久蔵を荷台に乗せて村を歩きます。そうすると村の人が声をかけてくれ、決まってシゲ子を褒めてくれる。
このシーンがなんとも怖くて良かった。心情からすると代理ミュンヒハウゼン症候群みたいな感じなんですかね。
長く抑圧されてきた自己が爆発したというか。
そしてそんな狂気?に取りつかれたシゲ子に久蔵は自分を重ねてしまう。
久蔵の回想でなんと久蔵がこの姿になったのは中国?での戦争中に中国人の女性の家に押し入りレイプして殺していたが、その家が焼け落ち下敷きになってしまったという「…軍神…?」という理由。
やたらとセックスを求めてくるように(シゲ子としては久蔵の為)なったシゲ子にその時の自分の姿を重ねてしまいEDになったり…
この久蔵の心情が個人的にはわからなかったです。
いや、レイプを後悔するならそれは良いことなんだけどさ、でもなんか腑に落ちない。
シゲ子に迫られるようになり襲われる側の気持ちがわかったってことなんですかね?なんかそれは違うんじゃないかなって思ったり。
でも結局ラスト久蔵は自ら死を選んでしまうわけで、それはシゲ子から逃れる為とは思えず、じゃあ何故かと言われると…
私としては「立派な勲章まで貰ったものの、実は自分の怪我は国に貢献したのではなく自己の欲求を満たすためだけの行為の結果である」という事実に徐々に耐えられなくなっていった…ってのならまだ納得できます。
まぁこれも違うんでしょうが。
そしてラスト。
ずっと反戦のような態度をとっていた村人が玉音放送を聞いて「戦争が終わったぞー」と喜んでいる姿を見て、畑仕事中のシゲ子も「バンザイ」と喜ぶ。しかし久蔵は家の裏の池に身を投げていた…というものなんですが、これはどうとったらいいのか。
こう言うのはダメな気もしますが、私には一種のハッピーエンドにも思えたり。
戦後に置いて久蔵はシゲ子が背負っていくにはあまりに重い戦争の負の遺産というか。
でもやっぱり話全体を通して「反戦作品」って印象を薄かったかな。
だから最初と最後に入る「戦争の残忍さ」を伝える映像はなんか浮いているように見え、逆に少し冷めてしまった。
それとこれはまた別の話というか。
まぁ何を思うかは人それぞれなのでね。
でも「戦争って嫌だなー」とは思ったのでそこらへんはちゃんと「反戦作品」なのかもしれないです。
とりあえず何度も言いますが、この作品の1番の見どころは寺島しのぶです。
ストーリーはそこまで…でした。
『ジョニーは戦場へ行った』はそのうち観ようかな。