忘れることに備える記録

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おみおくりの作法

STILL LIFE

2013年 2015年日本公開 イギリス・イタリア 91分

監督:ウベルト・パゾリーニ

キャスト:エディ・マーサン、ジョアンヌ・フロガット、カレン・ドルーリー、キアラン・マッキンタイア、アンドリュー・バカン

公務員のジョン・メイは、ロンドン南部ケニントン地区で亡くなった身寄りのない人々の葬儀を執り行う仕事をしている。

いくらでも事務的に処理できる仕事だが、律儀な彼は常に死者に敬意を持って接し、亡くなった人々の身内を捜すなど力を尽くしていた。

糸口が全て途切れたときに初めて葬儀を手配し、礼を尽くして彼らを見送ってきたが… 

 

なんとなく気になっていた作品。1週間レンタルOKになっていたので観賞。

とても良かったです。

静かで慈愛に満ち、かつ残酷で、しかし美しいこの作品。序盤から結構胸を掴まれていたのですが、ラストが、ラスト30秒くらいが…普段こういう演出?は好まないのですが良かったです。一気に涙が零れました。

他人に敬意を払うということは当然のことだと思うのですが最近はなんだかそういうことができない人がちょいちょいいるなーと感じていて(まぁそういう人に対しては私も敬意を払わないんですが)、しかしこのジョン・メイという存在を観てとても心が救われる気分になったというか。

見ず知らずの故人に敬意を払うというのは本当に心からの人に対する敬意がないとできないことだと思います。ジョン・メイはそれはもう生死も問わず、宗教の違いも、それこそホームレスにでも分け隔てなく敬意を払うのです。

誠実で几帳面で真面目な1人の男が1人の男の死によって少し変わる、その少しの変化が彼の人生に与える影響、そして真摯に仕事をしてきた男が得たもの。

観終わった頃にはきっとジョン・メイを愛しく感じ、彼の傍に寄り添いたくなる。

寂しげな秋の夜長にじんわり沁みる良作でした。

 


「おみおくりの作法」予告編 - YouTube


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以下ネタバレあり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孤独死した人の生前の親交を調べ、宗教を調べ、誠意をもって葬儀を行う民生係のジョン・メイが、「経費削減」の為に解雇が決まり、最後の案件である真向いに住む男の人生を辿るお話です。

「火葬にしてしまえばいい」と言われる仕事を何とか手を尽くして葬儀に参列してくれる人を探し、手掛かりがなくなるまで遺体安置所にお世話になりつつ、故人の人生を調べ弔辞を書き、1人ででもその人に合った葬儀でお見送りをする。何とも非効率的で不経済的な仕事をするジョン・メイ。

とても真摯に仕事をする彼もまた孤独で、ルーティンのように決まりきった日常を繰り返し、交通安全教室で習うような「右、左、右」を確認して信号を渡る。夜には身寄りを見つけてあげられなかった人の写真を集めたアルバムを見つめる生活。

でも孤独な人だから他人の孤独をわかってあげているとか、そういうのじゃなくて、ジョンのそれは人に対する敬意なんだよね。

そこらへんは説明的でなくちゃんと画面から感じ取れるからいい。

本当エディ・マーサンがジョン・メイにハマり役で。とても魅力的に演じてくれているから何とも愛おしいんだよね。

 

そしてそんなジョン・メイが解雇を機会に向かいに住んでいるも見ず知らずのビリーの人生を調べ始める。

孤独死した人にも想ってくれる人がどこかにいて、その死が誰かの悲しみになる。

それを証明するかのようなジョン・メイの行動が静かに観ている人の心を揺さぶります。

そしてビリーの娘に会い、ジョン・メイの人生が変わりそうだったその時。

いや、もう変わっていたのでしょう。

犬のマグカップを2つ買ったジョン・メイがバスに向かって、多分人生最初の飛び出しをする。

あんなに慎重だったジョン・メイが。

それでもあんなに無表情だったジョン・メイは道路に倒れたまま微笑むのです。

自分の為に買った眺めの良い墓地で寝転がっていたシーンと対になるシーンですが、まるで逆のような表情をするのです。

ビリーの人生を辿ることによって彼には何か変化が起きたのでしょう。ケリーに出会えたこともその1つかもしれませんが、まだ出会えただけなのに。でもジョン・メイはそう思える相手に出会えただけで幸せ、孤独でなくなったかのような表情をするのです。

それでも彼の葬儀には誰も来ず、牧師さんのみで葬儀が行われ、眺めの良い墓地はビリーに譲ってしまったので墓地の片隅の公共墓地に埋められる。

そして譲った墓地ではビリーの葬儀が行われており、ジョン・メイが葬儀に来てくれるよう頼んだ人達がビリーとのお別れをしている。

他人の死を孤独な葬儀にしない為に尽力したジョン・メイ、しかし彼の葬儀は何と孤独なことか。

そのやるせなさが、切なさが、人生の残酷さが、とても苦しくなるのです。

彼のやっていたことはなんだったのか…そう思ってしまうようなそのラスト。

しかし…

ジョン・メイの行っていた行動が一体どういうものだったのか、それがわかるラストのラスト。

それは是非自身の目で確かめていただきたいです。

 

個人的にスージーの飼い主の話がすごく胸が抉られるような気分でした。

それでもジョン・メイの弔辞が優しくて、ジョン・メイのその優しさに救われるのでした。

 

原題の『STILL LIFE』は静物画という意味ですが、ジョン・メイの人生は確かに静物画のようなものだったなと。

邦題は語感はなんか良いですが、タイトルとストーリーには少しズレがある気がします。