息もできない
BREATHLESS
2008年制作 2010年日本公開 韓国 130分
監督:ヤン・イクチュン
キャスト:ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク、ユン・スンフン
母と妹の死の原因を作った父親に対して強い憎しみを持っている借金取りのサンフンは、ある日、女子高生のヨニと知り合う。
サンフンは、強権的な父親や暴力的な弟との関係に悩むヨニに惹かれ、それぞれの境遇から逃避するかのように何度も一緒に過ごすうちに、互いの心に変化が訪れる。
韓国映画強化月間です。嘘です。ただクライム系の韓国映画がなかなか良作揃いってことに今更気付いたのでチマチマ観ていくことに。
ってことで良い評判ばかり聞く『息もできない』を借りてきました。本当は『殺人の追憶』を手に取ったのですが何故かふと『息もできない』にチェンジ。
この『息もできない』、面白い面白いって声ばかり聞き、今まで何度か観ようと思ったことはあるのですが、なんとなくエログロドヤ映画(個人的な呼び方)の雰囲気を感じて敬遠しておりました。
が!全然そんなことない。なんでもっと早く観なかったのか、と後悔するくらい良かったです。グロって言うか、バイオレンスなシーンは多いですが、ドヤ!って感じは個人的には感じず。暴力と暴言まみれなのにそこに対する不快感は特になかったです。
ただ「シバラマ」って韓国語だけは完全に覚えてしまった(笑)とりあえず「シバラマ」、なんでも最後は「シバラマ」。そんくらいの「シバラマ」率。覚えたものの使えないけどね(笑)
それにしても主演も務めるヤン・イクチュン。元々俳優の彼ですが、良い映画を作ったな。結構資金不足に陥ったようですが、なんとしても作りたかった気持ちがわかる。
低予算で大掛かりな何かはなく、カメラワークもストーリーも粗い部分が多く拙さすら見えるのに、それでもそこにヒリつくような空気が確かに漂っている、なんとも言えぬリアルさが凄かったです。
韓国映画、あなどれない…
以下ネタバレあり
家族(特に父親)と問題のある2人の男女が出逢って少しずつ人生が変わっていくお話です。
って言ってもそんな夢のある作品ではなく、ラストはバッドエンドなんですが。
しかもお互いの状況は語らず。サンフンはヨニの家庭は幸せだと思ってるし。
似た者同士だとは思っていない2人が徐々に打ち解けていく感じが、観ていて切なくもあり喜ばしくもありました。
最初は「ヨニ嘘なんてつかないで本当のこと言えよー」と思ってたのですが、本当のことを言ってお互い似た境遇だとわかったら反発し合うか共依存になるかだとも思うのでやっぱあれがベストだったな。
サンフンはヨニが自分とは違うと思ったからこそ変化を求めたのだろうし。
どことなく感じる仲間意識、でも違う人間。まったく同じ人よりそういう人との方が仲良くなれますよね、実際。自分そっくりの人とは絶対友達になりたくないですもん、私は(笑)
でもお互いのことを言わなかったからこそ起こる切ない事件。
サンフンは自分を殺した相手がヨニの弟とは知らないし、ヨニもサンフンを殺したのが自分の弟とは知らないんだよね。
警察何してるんだ!と思ったし、社長はあの日サンフンと弟が2人で仕事に行ってるのを知ってるんだから即犯人バレるんじゃないのか!と思ったけど、社長も他の人も犯人を知っている素振りはなかったのであの地域では日常的によくある事なのかな、と思いました。行きずりの誰かに殺されるって事件が特別捜査する程でもないような。
切ないですよね。
で、切ないと言えばヨニのお母さんのこと。
お母さんを殺したのはサンフンで間違いないんですが、サンフンは自分がヨニのお母さんを殺したってことは知らなくて、弟はサンフンが母を殺したことは何となくでもわかってるよね。
で、ヨニは?って思ってたんだけど、途中でお母さんの屋台が襲撃されているところをヨニが見ているシーンが出てきて、そこにはサンフンらしき人物がいるんだけど顔までは映らない。だからヨニは知らないのかな?と思ってたけど、ラスト、弟が屋台を襲撃しているところをたまたま見たヨニが弟の姿と当時のサンフンの姿を重ねる場面があって…
確かにサンフンのこと見ていてもおかしくないよね、弟が覚えているくらいだし。
ヨニがサンフンが自分の母を殺した相手だって知っているとしたら、物凄く切ないよね。ヨニはサンフンに「あんた人を殺したことあるでしょ」って冗談っぽくでも言ってたしね。
そういう部分は殆ど描かれていないんですが、それでも登場人物の気持ちがわかると言うか伝わると言うか。
うまく言葉で説明はできないけど、そこに、あの2人が惹かれあうのに何の違和感もないと言うか。ヨニが全てを知っていたとしても。
よくできてるなーと本当感心してしまいます。
それにしても弟の堕ちていき方が社会の闇をそのまま表していてキツかったです。
悪いことだとか、自分の母もされたことだとか、そういう倫理的・感情的な部分じゃなんのストッパーにもならない社会。
ヨニに見られた彼の表情、そして見てしまったヨニの表情。
状況は、社会は、まだ何も良い方に転じていないってラストに目の前に突き付けられたような感じで何とも言えない後味を残します。
良い評価ばかり聞くのも納得な作品でした。
久々に観終わってすぐもう1回観たいなと思った。
でもキャッチコピーの「二人でいる時だけ、泣けた」はチープを通り越して納得ができない域です。何故こんなキャッチコピーに…
あと、すごく良い作品だったしキャストも凄く良かったですが、社長は渡辺いっけいに見えてしょうがなかったし、ヨニのお父さんはほっしゃんだったし、サンフンはフジモンに見えて…なんか何とも言えない気分になってました(笑)
次は『殺人の追憶』借りてこようかな。