忘れることに備える記録

観たり・聴いたり・読んだり

コーヒーをめぐる冒険

OH BOY

2012年制作 2014年日本公開 85分

監督:ヤン・オーレ・ゲルスター

キャスト:トム・シリング、マルク・ホーゼマン、フリーデリッケ・ケンプター、カタリーナ・シュットラー、ミヒャエル・グヴィスデク

2年前に大学を中退してからぶらぶらと暮らしているニコは、朝からツキに見放されていた。小さないさかいの末に恋人と別れた挙句コーヒーを飲み損ね、運転適性診断室では取り上げられた免許証を返してもらえなかった。

さらにはカフェでコーヒーを頼むが所持金が足りず、お金を下ろそうとしたらカードが機械に吸い込まれてしまう。

 

レンタル店で何気なく手に取った作品。パケ裏を見てみると「ジム・ジャームッシュ」と「惑星ソラリス」の文字。

これは観るしかない!

と思って即決で借りてきました。

結果、個人的には超アタリでした。でも好き嫌いの別れる作品だと思うので以下の単語にピンと来ない方、起承転結がしっかりしたストーリー重視の方にはあまりオススメしません。

ジム・ジャームッシュトリュフォーゴダールウディ・アレン、そして何よりヌーヴェルヴァーグ

勿論全編モノクロです。そしてベルリンが舞台です。

これだけでこの作品の持つ雰囲気のほとんどが伝えられてるんじゃないかなーと。

あ、あくまでも美味しいコーヒーを目指して旅するロードムービーものではないのでお間違いなく。

とりあえず個人的には最高の85分でした。


f:id:ROUTE375:20150305014241j:image

 


映画『コーヒーをめぐる冒険』予告編 - YouTube

 

 

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

 

 

 

2013年のモノクロ映画?どうなのよどうなのよ、ただの巨匠たちの焼き直しだったら残念極まりないよーどうなのよどうなのよ、と半分ウキウキ、半分うーんって気分で観始めたんですが、初っ端でもう心掴まれました。

これはジャン=リュック・ゴダールの「勝手にしやがれ」のオマージュ!とすぐにピンときます。ゴダール好きなのでもうこの時点でニヤニヤ。

他にもアンドレイ・タルコフスキーの「惑星ソラリス」のサントラとか、マーティン・スコセッシの「タクシードライバー」のデ・ニーロの真似とか。そして監督自身が脚本書く前にフランソワ・トリュフォーを学んだと言ってるように全体に溢れるトリュフォー感。ベルリンが舞台ってことでヴィム・ヴェンダースの「ベルリン・天使の詩」も思い出したり。個人的に堪らないところだらけです。

 

ストーリーとしては「今時の若者のツイてない何気ない1日」、これ。

紹介文には彼女と小さないさかいで別れ、とあるけど、これは主人公ニコが悪いんじゃないかと…。彼女は悪くないでしょ。情事後の朝、彼女の寝てる隙にいそいそ帰ろうとするニコ、彼女が目覚めて「コーヒー飲む?」と聞いても「約束があるから…」と断り「今夜また会える?」と聞かれても無言。ニコが悪いだろ(笑)

多分約束ないし、終始浮かない顔、彼女からしたら振られたって思うところだよ。

そんな終始浮かない顔して、どこにも俺の居場所なんてないんだーみたいに思ってそうな、今時の若者。(決して今時の若者をバカにしてるわけで…はない…今時の若者全員をバカにしてるわけではない)

大学は法学部に通うも明確な理由なく勝手に中退、親に告げずに仕送りを貰いながら「考えて」過ごす。何を考えてるかと言うと「自分のことやお父さんのこととか…」

アホか!!と今の私なら思う、けど、まぁその気持ちもわかる。非常にわかるよ。

ニコ的に言うと自分の生活に「違和感」がある感じね、ここじゃない感と言うかね。

人類の半数が一時は持つんじゃないかと思う「オレは本当にこれでいいのか、ここがオレの居場所なのか、もっと他に何かあるんじゃないか」という漠然とした何か。

確かに他に何かがあるのかもしれないけど、ほとんどがそんなの見つからないんだよねーとか夢のないことは置いておこうか。

 

とりあえずそんな鬱々としたニコが自分探し(という言葉はあまり好きではない)をしながら色んな人に会って、色々と言葉を交わしていく、だけの話です。

ストーリー上の明確な到達点は無し。むしろ何も変わらずに終わります、表面上は。ニコの内面は何か変わってるのかもしれないけど、それをこちらに提示してくれることはないです。

変化はただ1日呪われてるのかってレベルで飲めなかったコーヒーがようやく飲めたってだけのこと。本当にそれだけ。

それでもその中にじんわりと心に沁みる部分がある。

ラストに出てくる酔っ払いのフリードリヒは物凄く良い味出してたし、彼の「ガラスの破片だらけじゃ自転車に乗れない」や「オレは笑われてるとは思わなかった、みんな喜んでるんだと思った」といった言葉がなんかズッシリとくる。

このフリードリヒは最後に名前が明らかになるんだけど、フリードリヒ通り沿いのバーで出会うフリードリヒ。フリードリヒを中心に西と東で分けられてたんだよね?この老人の名前がフリードリヒってのはちょっとゾクッときた。

あと登場人物として好きなのはマルセルのおばあちゃん。孫と一緒に暮らしていて、孫はおばあちゃんに冷たくないんだけど多分まともな奴ではない、っていうか売人かな。ニコがトイレから戻ってくる時に見た鏡に映るおばあちゃんの姿が寂し過ぎて泣きそうになったよ…。でもそこでニコがおばあちゃんの所に行って話しかけてくれたから良かった。そう、このニコ、いつも冴えない顔してるんだけど意外と情があるんだよね。このシーンで「ニコ!嫌いじゃない!」ってなったよ(笑)

孫がくれたマッサージチェアに座って、バックには惑星ソラリスの曲、そして「いいイスですね」って褒めたニコに「座ってみる?」って。

おばあちゃーん!!!ニコがおばあちゃんに冷たい奴じゃなくて良かった。

ニコはニートだし、飲酒運転で免許取り上げられるし、他人と関わるのが苦手そうだし、そんなクズだけど、嫌いになれないのは情があるからだな。

酔っ払いのフリードリヒに絡まれた時も最初は「1人でいたい」って断るくせに、結局話を聞いて、倒れたフリードリヒに付き添って病院まで行き、容体を心配して夜を明かしてしまうという。

嫌いじゃないよ、お前みたいなやつ…と思いながら何故かジーン…

 

ああ、良い映画観たなー、とじんわり感じました。

 

個人的好きなシーンは、ニコがタバコ吸う癖になぜか火を持ってなくて色々な人に火を貰うんだけど、その火を貰う場面はほとんど好き。

特に映画撮影所の外で貰うところ。ナチス政権役とユダヤ人役の人がお喋りしながらタバコを吸ってるのが素敵なシーンだなーと思いました。映画の内容(映画の中の映画の話)が内容だけに物凄く良いシーン。

 

しかしモノクロ映画は何故こんなにもタバコが美味しそうに見えるのか…久々にめっちゃ吸いたくなったわ…寝てやりすごそう…

 

とりあえずこのヤン・オーレ・ゲルスターの次の作品も要チェックしておきます。しかしこの監督結構な凶悪面なのに素敵な映画を撮るねー(笑)

ニコ役のトム・シリングも低身長・童顔が良かった。ニコは多分23歳くらいなんだろうけど、10代に見えたからなぁ(笑)