恐怖分子
恐怖分子
1986年制作 香港・台湾 109分
監督:エドワード・ヤン
キャスト:コラ・ミャオ、リー・リーチュン、チン・シーチェ、ワン・アン、リウ・ミン
銃声が響き渡る朝。警察の手入れから逃げ出した混血の少女シューアン。
その姿を偶然カメラでとらえたシャオチェン。
上司の突然の死に出世のチャンスを見出す医師のリーチョンと、執筆に行き詰る小説家の妻イーフェン。
何の接点もなかった彼らだが、シューアンがかけた1本のいたずら電話が奇妙な連鎖反応をもたらし、やがて悪夢のような悲劇が起こる。
今年リマスター上映されたエドワード・ヤンの作品がレンタル開始していたので思わず借りてきました。
エドワード・ヤンは何となく気になってたものの手を出さなかった1人。
今回良い機会だと思って観たんですが…今の私にはあまりグッとこなかったかな。
でも違うタイミングで観ていたらハマったかもしれないな。出会うタイミングって大事ですもんね。今までで1番それを思ったのは村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』。
私は大学に入るまでほとんど1950年代くらいまでの純文学しか読んでいなくて、20歳くらいからそれ以外を読みだしたんですが、『コインロッカー・ベイビーズ』は確か23歳くらいの時に読んで「面白い…けど5年から10年くらい前に読んでたらもっと面白く感じただろうし、色んな意味で自分の人生に何かしらの影響があっただろうな」と思いました。もうあの話に全力で乗っかれる年齢ではなかったというか。
現代文学(と言うのかな?)を読み始めてからこの感覚はたまに味わいます。高校生までの自分は好き嫌いが多かったと反省。
で、この作品もそんな感じ。
台湾の当時の社会問題を扱っているようですが、まぁこういうのって根本的にはどの時代でもどの国でも通じるというか。銃が街中でぶっ放される感覚は日本ではわからないけど、現代社会に生きる人々の孤独、的なのは今の日本でもわかることなのでそこらへんの違和感はないんですが…なんていうのか…『コインロッカー・ベイビーズ』と同じ感覚になりました。
この話に全力で乗っかれる年齢ではないって感じ。
人は誰しも誰かの「恐怖分子」になり得る、なんてことはもうそれなりにわかっているので。
でも映像はアートな面では良かったです。光と音の具合が過剰気味なんだけど自然で日常っぽくもある。不思議な感覚。
個人的にはゴダールを彷彿としたり。小物の感じとかカット割りとか結構赤が目についた気がするところとか、登場人物が観客の方を向いて喋ってくる感じとかね。
まぁ私はこの手の作品を観ると大体ゴダールを感じるので(笑)
そこそこ面白かったけど他の作品に続けて手を伸ばそう、とまではいかなかったって感じかな。
以下ネタバレあり
なんか脚本が個人的にうーんって感じなんだよな。
登場人物がそれぞれ悩みや思いを持っていて交錯していくって話は結構好きなんですが、これはちょっと交錯のさせ方が力技な感じが。
まず登場人物のほとんどに感情移入できないのに、納得できないような交錯の仕方をしていくからなんかずっと「うーん…」って思いながら観ていたような。
しかも序盤っていうか前半半分くらいが結構退屈。
いや、物語の導入部分で色々彼らの生活や状況を見せてくれているのはわかるんだけど…でもちょっと退屈だったな。
で後半状況が動き出すんだけど「え?」って感じるくらい変わらないというか。
いや、あらすじにあるように悲劇の方に進んでいくんだけど、それはリーチョンにとってで、他の人たちは変わらずな気が。
あれだけ無理にでも交錯させていくのにそれによって大きな変化を得るのはリーチョンだけというか。結局うまくいかなくなっての自殺っていう。
いや、まぁ社会なんてそんな簡単に変わらないんだけどね、わかっているんだけどね、みんな劇的に変わってたら変わってたで「簡単に変わり過ぎ」とか言うかもしれないんだけどね。
なんか「ここまで観てきてこれ?」って感覚を久々に味わったというか…期待が大きすぎたのかな?
これだけの人数をメインっぽく使った割に活かしきれてないと感じるし、そもそも「知らない誰かが自分の人生を破滅させる1ピースになる」というようなテーマがあまり機能していないっていうか。
そりゃシューアンのいたずら電話は1つのきっかけだったかもしれないけど、あれによってリーチュンの人生が台無しになったって感じが弱かったような。結構自業自得な感じを感じたからな。
うーん、ストーリーは本当にハマらなかったな。
でもやっぱ最後まで観れたのは映像のおかげかと。
こういう映像が特別好きなわけではないですが、それでもやっぱり観ていて面白いな、とか綺麗だな、とかは感じました。
オススメはあまりしないけど、興味を持った方は観てもいいと思う、そんな感じでした。